マイノリティの人権と尊厳を傷つける「嫌韓」煽動に抗議する声明

2019年9月12日、外国人人権法連絡会、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)、のりこえねっとの4団体で「マイノリティの人権と尊厳を傷つける「嫌韓」扇動に抗議する声明」を発表し、同日、衆議院第二議員会館で記者会見を行ないました。

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マイノリティの人権と尊厳を傷つける「嫌韓」煽動に抗議する声明

私たちマイノリティの人権保障と反差別に取り組む NGO は、昨今の韓国への日本政府の対応や、それと連動した報道や出版が、日本社会の中にある「嫌韓感情」を焚き付け、在日コリアンをはじめ、日本に暮らす移民やマイノリティの人権と尊厳を脅かしていることに、深い憂慮を抱いています。
日本と朝鮮半島の歴史的な結びつきを背景に、日本社会には、百万を超える在日コリアンやコリアン・ルーツの人びとが暮らしています。そうした人々の多くは、今、この社会を覆う「嫌韓」ムードや、それにもとづくテレビや出版物、インターネット・ SNS あるいは日常生活における差別的な発言・振る舞いに傷つけられ 、テレビやネットを見ることができなくなったり、 SNS 発信もできなくなるなど恐怖や悲しみを感じながら暮らしています。また、「親日/反日」のような単純な二分法で「日本」に忠誠を迫る言説は、それ以外のマイノリティにも生きにくさを感じさせています。

今回の「嫌韓感情」の急速な悪化の背景の一つとなった韓国での徴用工裁判における大法院判決は、日韓政府の戦後処理のあり方に疑義を突きつけるものでした。植民地下の人びとに多大な苦痛と被害を与えた日本は、この問題に率先して向き合う必要があります。実際、日本政府はこれまで、 村山首相談話、日韓共同宣言を公にし、2010 年の菅首相談話では、「 植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し 、」「 痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明」しました。これらによる政府見解は、現在でも有効とされています。
また日本政府は、従来から、日韓条約締結にともなう請求権協定によっては「個人請求権は消滅していない」という立場に立っています。にもかかわらず、その点はほとんど報道せず、韓国の対応ばかりを批判する政府やマスメディアの姿勢は大いに問題があります。

「過去の歴史をいつまで批判されるのか」という 反応もみられます。しかし、本人の意に反して徴用され、苦役に従事した上、長年にわたり何の補償もなく放置されてきた当事者及びその家族にとって、これは決して「終わった」出来事ではありません。

「徴用」にまで至った植民地支配下の労働移動は、労働者の権利や尊厳を顧みず、過酷な労働を強いました。これは、現在の外国人技能実習制度にも通底する問題です。つまり「徴用」は、この点でも、現在を生きる「われわれ」にとっての問題でもあります。私たちは、支配された人々の人権と尊厳を最も残忍な形で奪った植民地支配とアジア太平洋戦争の 歴史、それを曖昧な形で処理してきた戦後の対応への真摯な反省を通じてこそ、マイノリティの人権と尊厳が保障される社会を、今ここにつくることができると考えています。同時に、この深刻な被害を引き起こした人権問題を共同で解決しようとすることこそが、日本と韓国、ひいては東アジアの平和の基礎となるべき、未来志向の作業であるはずです。

本来、マイノリティの人権と尊厳にかかわるはずの問題が、国と国の対立の問題としてばかり扱われることによって、十分な事実理解を伴わない感情的な反応が生み出され、特定の国民・民族を貶め、差別を 煽るヘイトスピーチ、ヘイトクライムとして表出されています。それらを日本政府、日本社会が容認し、「正統」な言論として拡散されている事態を、まずもって終わらせる必要があります。このような立場から、日本社会における「嫌韓」煽動に抗議し、マイノリティの安心・安全を早急に回復するよう求めます。

2019年 9 月 12 日
NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク
外国人人権法連絡会
人種差別撤廃NGO ネットワーク (ERD ネット)
のりこえねっと

人種差別NGOネットワークなど8団体が、人権法制度の整備に関する政党アンケートを実施

 7月21日投票日の参議院選挙に際して、人種差別撤廃NGOネットワーク、外国人人権法連絡会など8つの人権NGOが、

  1. 包括的な差別禁止法の制定
  2. 独立した国内人権機関の設置
  3. 個人通報制度の導入
の3点について、7つの政党に向けたアンケートを実施しました。
 各政党から届いた回答を順次、下記の反差別国際運動(IMADR)のサイトに掲載しています。

「日本における外国人・民族的マイノリティ人権白書」2019年版

外国人人権法連絡会では、毎年「日本における外国人・民族的マイノリティ人権白書」を発刊しています。その2019年版を、2019年3月31日付で発刊しました。

下記の通り、外国人・民族的マイノリティについて包括的に取り上げ、最新の状況を知ることができます。ぜひご一読ください。
 
 
●1冊 1,000円(送料込み)

 ※10冊以上購入の場合は、8掛け

【購入方法】

購入を希望される方は、下記のフォームに必要事項を入力し、送信してください。
お申し込み後、「人権白書」と郵便振替用紙を送ります。本が届いたら、郵便局で本代を振り込んでください。

・郵便振替口座:
口座番号 00100-5-335113
講座名称 外国人人権法連絡会

・連絡先:在日韓国人問題研究所(RAIK)
FAX 03-3202-4977 または e-mail: raik@kccj.jp

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外国人・民族的マイノリティ人権白書2019」チラシ ダウンロード

※PDF形式、170kB
※FAXでのお申込み希望の方は、上記チラシ用紙をご利用ください。


【目次】

はじめに  ―― 日本語教育をめぐるあれこれ

第1章●新たな外国人労働者受け入れ政策を問う
1.移民の生活を支える政策を
2.「新たな外国人材受入れ」をめぐる国会審議
3.新たな在留資格「特定技能」とは何か〜その概要と問題点〜
4.出入国在留管理庁の新設と在留管理
5.「総合的対応策」の背後で進行する「外国人材の活用」

第2章●すでに暮らしている移住労働者たち
1.外国人労働者の現状と技能実習制度
2.技能実習生の妊娠中絶・帰国強要事件
3.後を絶たない強制帰国
4.技能実習生の除染作業
5.日立製作所における大量解雇・強制帰国
6.協同組合つばさ事件 ~未払賃金、セクハラ、解雇
7.日系人労働者3000人雇い止め
8.日本における外国人介護労働者
9.働きながら学ぶ留学生

第3章●ヘイトスピーチ・人種差別
1.へイトスピーチ解消法施行から2年半~国の施策を中心に
2.解消法施行後における条例制定の進展
3.公共施設の利用制限
4.ネット上のヘイトスピーチ
5.ヘイトデモ・街宣とカウンター行動
6.選挙活動とヘイトスピーチ
7.李信恵さん裁判
8.朝鮮総聯中央本部銃撃事件
9.国連人種差別撤廃委員会による日本政府審査

第4章●”先進国”日本の外国人管理体制
1.入管における長期化する収容問題
2.難民認定制度運用の見直し
3.難民認定をめぐる裁判
4.「新しい在留管理制度」開始から7年、施行状況の検討結果公表
5.フジテレビ番組「タイキョの瞬間!」が残したもの
6.外国人の医療保険加入に対するネガティブキャンペーン
7.アルジュンさん不審死事件
8.日系四世受入れ開始

第5章●移住女性の権利
1.国籍法改正から10年、JFC母子の人身取引防止に向けて
2.移住女性と在留資格
3.「リコン・アラート」~勝手に離婚される協議離婚制度へのアクション
4.DVシェルターの行方

第6章●マイノリティの子どもたちの権利
1.朝鮮学校無償化排除裁判、各地の裁判状況
2.大阪府・大阪市による大阪朝鮮学園の補助金打ち切り問題
3.「日本語指導を必要とする児童生徒」、最新版で高校生の実態明らかに
4.高校進学特別枠と特別措置
5.「家族滞在」の子どもの進学・就職問題
6.義務教育機会確保法と夜間中学
7.朝鮮学校生「お土産没収」事件
8.特別支援が必要な複合的課題を持つ外国ルーツの子どもたち
9.外国人学校の現況――求められる制度的保障

第7章●地方自治体と外国人住民施策
1.改定入管法と地方自治体
2.地方自治体から「総合的対応策」はどう見えるのか?
3.日本語教育の保証、日本語教育議連の法案
4.公務就任権(外国籍公務員)CERD総括所見を受けて
5.災害と多文化共生
6.外国人医療支援の現状

第8章●国際人権基準とマイノリティの権利
1.人種差別撤廃委員会の審査マイノリティコミュニティ
2.アイヌ新法案:日本型先住民族政策の虚構
3.自己決定権の主体は「沖縄県民」ではなく「琉球民族」
4.琉球民族の遺骨返還を求めて京都大学を提訴
5.インドシナ難民の在住40年をふり返って
6.「子どもの権利委員会」の審査と総括所見
7.難民と移住に関する二つの「国連グローバル・コンパクト」採択

第9章●未解決のままの国家責任を問う
1.「慰安婦」問題と戦時性暴力 ―歴史の抹殺をはかる日本政府
2.韓国で相次ぐ元徴用工裁判の勝訴判決
3.徴用工事件大法院判決をめぐる韓国非難の大合唱
4.韓国・朝鮮人元BC級戦犯問題、進まぬ立法化
5.戦後処理・補償問題関連の資料公開
6.黙ってたまるか! 在日無年金当事者の闘い
7.あらたな「まちづくり」に向かうウトロ

おわりに ―― 歴史認識と新たな外国人労働者の受入れ

資料1 在日外国人の人口動態
資料2 国際人権諸条約一覧
資料3 人種差別撤廃委員会総括所見(NGO訳)
資料4 外国人人権法連絡会 声明文など
資料5 白書バックナンバー
「外国人人権法連絡会」とは

【院内集会】ヘイトスピーチ解消法施行から3年  改定入管法施行後の反人種差別政策に向けて

◆日時 2019年5月29日(水)13:30-15:00
◆会場 参議院議員会館 101会議室(東京都千代田区永田町2-2-1)
 地下鉄「永田町駅」「国会議事堂前駅」下車
※13:00から、参議院議員会館1Fロビーで入館証を配布します

◆プログラム
・安田浩一さん(ジャーナリスト)「外国人労働者とヘイトスピーチ」
・指宿昭一さん(弁護士)「改定入管法と外国人の人権」
・鈴木江理子さん(国士館大学教授/社会学)「解消されない実質的差別と拡大する制度的差別」
・師岡康子さん(弁護士)「切迫する人種差別禁止法の必要性」

◆参加には事前申し込みが必要です。
5月28日(火)までに以下のリンク先(ウェブ申し込みフォーム)からお申し込みください。
https://forms.gle/PHMt1v3SJKZne5V9A

◆主催 外国人人権法連絡会/移住者と連帯する全国ネットワーク/人種差別撤廃NGOネットワーク/のりこえねっと/ヒューマンライツナウ

 2019年4月1日、改定入管法が施行されました。これについては昨年秋以降すでに多くの問題が指摘されてきましたが、今回の施行によってさらに拡大すると予想される「受け入れ後」の問題、とりわけ今の日本社会で明らかに軽視されている外国人の人権にかかわる問題については、対応の必要性すら十分に認識されていません。しかもこうした認識は、現政権の「これは移民政策ではない」という非現実的なタテマエによって、より強化されています。
 一方、こうした問題にも大きくかかわる法律であるヘイトスピーチ解消法は、施行からまもなく3年を迎えます。解消法の施行自体は大きな前進でしたが、罰則のない理念法である解消法は、市民社会による日々の後押しなしでは成り立ちません。また、改定入管法施行後の日本社会において外国にルーツを持つ人々の人権を適切に保障するためには、改定入管法と解消法をリンクさせ、新たな立法も射程に入れたさらなる力の結集が必要となります。
 こうしたことを受けて今回の集会では、ジャーナリストの安田浩一さん、弁護士の指宿昭一さん、国士舘大学教授の鈴木江理子さん、弁護士の師岡康子さんとともに、改定入管法施行後に求められる反人種差別政策について議論し、必要な提言を行います。

◆連絡先 外国人人権法連絡会(RAIK内) raik@kccj.jp
※嫌がらせや中傷を目的としたご参加は固くお断りいたします。

外国人人権法連絡会 2019年総会記念シンポジウム “日本ファースト”改定入管法を検証する

外国人人権法連絡会 2019年総会記念シンポジウム

“日本ファースト”改定入管法を検証する
――多民族・多文化社会と2018年入管法改定――

2018年12月、在留資格「特定技能」の新設と、「出入国在留管理庁」設置の改定法が成立した。続いて政府は、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を決定。
政府は「これは移民政策ではない」と言う。

これら「移民政策とはしない」外国人政策は、日本社会、そして外国人の暮らしに何をもたらすのか。日本人と外国人・移住者との協働の現場から検証する。

◆日時◆
2019年 4月 27日 (土) 14:00~16:30(開場 13:30)

◆場所◆
在日本韓国YMCA 9階 2.8記念国際ホール
〔地図〕東京都千代田区猿楽町2-5-5
(JR・水道橋駅東口徒歩6分、地下鉄・神保町駅徒歩7分)

◆資料代◆ 1,000円(会員500円)
(新刊『日本における外国人・民族的マイノリティ人権白書2019』〈外国人人権法連絡会編〉1冊を含む)

◆主催◆
外国人人権法連絡会 https://gjinkenh.wordpress.com

◆プログラム・登壇者◆
報告① 佐藤信行さん(外キ協/移住連) 「人権政策ぬきの“移民政策”」
報告② 田中 宏さん(一橋大学名誉教授) 「外国人(異民族)政策の戦前と戦後」
全体討論 「移民政策・人権政策への転換に向けて」
・コーディネーター:丹羽雅雄さん(弁護士)

◆お問合せ先◆
在日韓国人問題研究所(RAIK)
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-3-18 日本キリスト教会館52号室
TEL 03-3203-7575  FAX 03-3202-4977  raik@kccj.jp

本シンポジウムのチラシ(A4サイズ)ダウンロード(PDF、1.2MB)

「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案」に関し、不当な差別を受けないための立法措置に向けた規定を追加し修正することを求める NGO共同要請書簡

内閣総理大臣 安倍晋三 殿、 法務大臣 山下貴司 殿

日本においては、人手不足に対応するために外国人労働者が急増しており、2020年東京オリンピック・パラリンピックを機会に多くの外国人が日本を訪れることも見込まれております。

このように日本に滞在する外国人や外国にルーツを持つ人びとの大幅な増加が見込まれ、かつ、外国人労働者に対する政策も大転換を迎えているにも拘らず日本には、多くの国々と異なり、人種、民族、肌の色、出身国、宗教等による不当な差別的取り扱いを禁止する法律がありません。

外国人受け入れについて日本が転機を迎えるにあたっては包括的な政策の導入が必要ですが、その基礎となる重要な施策の一つが人種差別を防止・禁止する法律です。また、人種差別を撤廃する政策をとることは日本政府の国際法上の責務でもあります。

外国人等が不当な差別や排除から守られることは、当事者である外国人等にとっての基本的人権であることは言うまでもありません。不条理な差別や排除を経験すると、人の心は深い悲しみを経験し、屈辱を感じ、その尊厳は傷つき、「多大な苦痛を強いられ」ます(「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」、いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」前文)。

そして、ヘイトスピーチをはじめとする差別は、社会に憎しみと暴力を蔓延させて「社会に深刻な亀裂を生じさせてい」ます(同上、ヘイトスピーチ解消法前文)。外国人等が不当な差別や排除から守られる日本社会で共生できることは、日本社会にとっても極めて重要かつ有益なのです。

そこで政府に対し、下記の規定を入管法改正案に修正して追加するよう求めます。

<入管法改正案を修正して追加すべき規定案>
●政府は、外国人がその人種、民族、肌の色、出身国、宗教等により不当な差別を受けることなく日本社会で共生していくための施策を講じるとともに、そのために必要な法制上の措置については、この法律の施行後二年以内を目処として講ずるものとする。


賛同団体【50音順】
(16団体、2018年12月4日正午現在)

Anti-Racism Project(ARP)
特定非営利活動法人 移住者と連帯する全国ネットワーク
外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)
「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」と「人種差別撤廃法」の制定を求める連絡会(外国人人権法連絡会)
特定非営利活動法人 コリアNGOセンター
在日大韓基督教会 在日韓国人問題研究所(RAIK)
差別・排外主義に反対する連絡会
公益社団法人自由人権協会
人種差別撤廃NGOネットワーク
特定非営利活動法人 名古屋難民支援室 [1]
NPO法人難民自立支援ネットワーク(REN)
日本カトリック難民移住移動者委員会
反差別国際運動
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ
認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ
ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク

[1] 特定非営利活動法人名古屋難民支援室については、「今回の入管法改正において、問題となっている問題点、すなわち、技能実習生の大多数が最低賃金法違反、無視の過酷な就労を強いられ、現実に差別を受けている現状が指摘されていることを深く反省し、真摯に受け止めるべきことから、本件提案は、不可欠の課題であり、本件緊急提案を行うものである。」という理由付きでの賛同である。

「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例案」に対する声明

東京都は本年2018年9月19日、都議会に「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例案」(以下、都条例案)を提出した。
私たちは、東京都が「様々な人権に関する不当な差別と許さない」ことを掲げる人権条例を制定すること、その中に、差別禁止条項を含む「多様な性の理解の推進」に関する章が設けられたこと、及び、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消にむけた取組の推進に関する法律」(以下、解消法)4条2項に基づいて地方公共団体が実施する、不当な差別的言動の解消に取り組む章が設けられたことを歓迎する。都道府県レベルではじめて解消法の実効化を条例制定の形で行うものであり、東京都の取組は国及び他の地方公共団体の取組を促進することを期待したい。解消法施行後2年以上過ぎても、実効化のスピードが遅く、被害者に終わりの見えない苦痛と恐怖を日々もたらしている現状を切り崩す一助となりうる。
他方、条例案の内容は、本年6月に発表された「条例案概要」や、先行例である「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」(以下、大阪市条例)、京都府などの公の施設等の利用に関するガイドラインになどと比べても、後退あるいはあいまい化している箇所が散見される。
私たちは、以下の点について、修正ないし条文解釈の明確化することにより、被害者救済のため実効性があり、かつ、濫用の危険性を防止する仕組みのある、よりよい都条例を制定することを切望するものである。

  1. 前文に、立法事実及び国際人権諸条約を入れる。
  2. 目的に、都による「いかなる差別も受けることがない」社会の実現が含まれることを明確化する。
  3. 3章に、2章の性的マイノリティに対する差別とパラレルに、人種等を理由とする差別的取扱い及び差別的言動の禁止条項、および都の基本計画制定義務など基本法的条項をいれる。
  4. 解消法が地方公共団体に求める相談体制整備(5条)、教育の充実(6条)、ネット対策及び差別の実態調査(附帯決議)を条項に入れる。
  5. 「不当な差別的言動」の定義(8条)を、解消法2条ではなく、人種差別撤廃条約1条1項の定義とする。
  6. 公の施設の利用制限の要件、効果、手続き等の基準を条文に入れる(11条)。
  7. 「不当な差別的言動」と認定された場合は、その概要は必ず公表するものとし、氏名若しくは名称の公表についての基準を条文に明記する(12条)。
  8. 審査会の委員は、人種差別撤廃に関する学識経験者の中から選び、必ずマイノリティ当事者を入れるようにし、都議会の同意を条件とする。委員の人数は20人以上とする(15条)。
  9. 都知事は審査会の意見を尊重すべきとの条項を入れる。
  10. 審査手続きにおいて表現行為者に意見を述べる機会を保障する。

理由はそれぞれ下記のとおりである。

1. 前文に、現在都内で多いときは週1ペースでヘイトデモ・街宣が行われ、また、外国籍住民の4割が入居差別、4人に1人が就職差別を経験するなど法務省の2017年3月発表の調査結果でも明らかになっている深刻な人種差別などの実態を、立法事実として示すべきである。
オリンピック憲章以前に、自由権規約や人種差別撤廃条約など、日本が締約国として履行義務がある諸条約があり、その履行が不十分と国際人権諸機関から何度も勧告されている現実から出発すべきである。

2.「条例案概要」では「あらゆる人がいかなる種類の差別も受けることがなく、人権尊重の理念が広く都民に一層浸透した社会を実現」となっていたが、都条例案では「いかなる種類の差別も許されないという、……人権尊重の理念が広く都民等に一層浸透した都市となることを目的」との表現になっている。理念の浸透は手段の一つであり、目的は、都による「いかなる差別も受けることがない」社会の実現であることを明確にすべきである。

3.都条例案は、ヘイトスピーチ対策のみを取り上げているが、ヘイトスピーチは人種差別の一部であり、人種差別全体に対する取組が不可欠である。オリンピック憲章も人種差別撤廃条約も人種差別全体の撤廃を求めている。
他方、都条例案は、性的マイノリティに対する差別については「不当な差別」全体の解消の推進を趣旨とし(3条)、「不当な差別的取扱い」の禁止規定を置き(第4条)、差別解消に向けての「基本計画」制定と必要な取組推進を都の責務としている(5条)。
都条例案は、解消法の実効化と位置付けられているが、解消法自体に基本法的条項がない。そのため東京都自らが、その旨を2016年9月13日付け要望書で法務省人権擁護局に指摘している。解消法に基本計画などの見通しがないことが、実効化が進まない一因となっている。国がそれらを示さない以上、都民の尊厳と安全に対し責任を持つ東京都が、性的マイノリティに対する差別対策と同様に、基本計画などを示すべきである。
また、大阪市条例には禁止条項がなく、拡散防止措置及び公表制度の主目的が啓発にとどまっており、特にネット上のヘイトスピーチに対しては実効性が弱いことは大阪市長も問題視している。差別撤廃の実効性のためには、最低限禁止規定と何らかの制裁規定が不可欠である。本年8月の国連人種差別撤廃委員会でもヘイトスピーチ、ヘイトクライムを含む包括的な差別禁止法の制定が勧告されている(para.8,14(b))。
この点、都条例案では性的マイノリティの不当な差別的取扱いについて禁止条項を入れているのだから、人種的マイノリティに対する差別的取扱いについて禁止しない理由はないはずである。
差別的言動については、表現の自由の過度の規制とならないよう、深刻な場合に限定した明確な定義と、第三者機関を置くべきである(東京弁護士会人種差別撤廃モデル条例案参照)。

4.都条例案では、解消法の求める基本的施策のうち啓発の推進(第10条)しか条文にないのは解消法の実効化としても不十分である。

5.都条例案では解消法第2条の定義を引用しており、対象が適法居住要件つきの在日外国人若しくはその子孫と非常に限定されている。本来、対象を人種差別撤廃条約第1条1項の定義する対象とすべきである。もし、解消法の定義を使うのであれば、最低限、川崎市の「公の施設利用許可に関するガイドライン」のように、衆参両院の附帯決議が、対象は解消法2条の規定するものに限定されないとしたことを示し、特段の配慮が必要である旨、明記すべきである。特に適法居住要件は、人種差別撤廃条約違反であり、今回の人種差別撤廃委員会による勧告(para13、14)でも批判されている。

6.「条例案概要」では、公の施設利用を不許可とする2つの要件(いわゆる言動要件と迷惑要件)の両方を充たすことが必要と明記されていたが、都条例案では要件が知事一任となっている。しかし、集会の利用制限は、憲法上重要な集会の自由の制限であるため、必要最小限の制限かつ公正な手続きによることが必要であり、過度の制限、濫用の危険性を防ぐため、都議会で議論の上、条文で定めるべきである。
また、要件は、言動要件のみにすべきであり、仮に両方を定めるなら、京都府、京都市のように選択的にすべきである。両方を必要とした川崎市ガイドラインでは要件が厳しすぎて実効性を確保できないことがすでに明らかになっている。
手続は、都民が審査を申請できるようにし、審査会(14条)の調査審議の対象とすべきである。

7.抑止の実効性確保のためには、悪質な場合には氏名もしくは名称を公表することが不可欠である。他方で濫用を防ぐ必要もあるため、知事に一任するのではなく、氏名などの公表についての基準を定め、公表内容についても事前に審査会の意見を聴くよう条例で定めるべきである。
また、都条例案12条は、ヘイトスピーチと認定した場合に、知事の判断で、概要も公表しないことができるように読めるが、それでは条例により認定された結果の全体像も不明確になってしまい、制度の意義も減殺させる。

8.審査会の委員は知事が委嘱することとなっているが、公正性、知事からの独立性を担保するために、大阪市条例と同様に都議会の同意を条件とすべきである。
審査会の委員の条件は、単なる学識経験者では不適切であり、ヘイトスピーチを含む人種差別撤廃に関する学識経験者とすべきである。
また、被害者の意見を聴くことは認定判断にとって不可欠であるから、審査会の委員には必ずマイノリティを入れるべきであり、その旨を東弁モデル条例案のように条項として明記すべきである。
人数については、大阪市の審査会の5人の委員による審査では、審査申出に対して1年以上経っても結論がでていないものもあり、人員が足りないことが明らかになっている。大阪市の約4倍もの人口を有する東京都の委員が5人では機能しないことが最初から明らかであり、最低限大阪市の4倍の人員は不可欠と考える。

9.審査会の意見に法的強制力がないのはやむを得ないが、都知事がその意見を尊重することを担保する条項を入れるべきである。例えば審査会の意見と違う決定をする場合は、その理由をつけて審査会に報告する制度などを導入すべきである(東弁モデル条例案参照)。

10.適正手続きの保障の観点から、差別的言動を行ったと思料される者の弁明の機会を保障すべきである(大阪市条例の第9条2項参照)。

なお、いかなる差別も許さないことを理念とする人権条例をつくるにあたっては、東京都が、同時に、朝鮮学校に対する補助金の再開(人種差別撤廃委員会の2014年勧告para.19)など、自らが人種差別撤廃条約2条1項cにより「政府(国及び地方)の政策を再検討し、および人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、阻止し又は無効にするための効果的措置をとる」義務を誠実に履行することを強く求めることを付言する。

2018年 9月 26日
外国人人権法連絡会
共同代表 田中宏 丹羽雅雄

 

声明文 PDF版(213KB) (※クリックすると別ウィンドウで表示されます)

5/30(水)院内集会「解消法施行から2年 ネットはヘイトにどう向き合うべきか」

▼日時: 2018年5月30日 (水) 15:30-17:00

▼会場: 参議院議員会館 B107会議室 (東京都千代田区永田町2-1-1)

▼発言者:

    • 津田大介さん(ジャーナリスト)
      「インターネットとヘイトスピーチ」
    • 金尚均さん(龍谷大学教員/刑法)
      「ドイツにおけるSNS上のヘイトスピーチ対策」
    • 川口泰司さん((一社)山口県人権啓発センター事務局長)
      「ネット社会と部落差別~現状と政策課題~」
    • コーディネーター:ハン・トンヒョンさん(日本映画大学教員/社会学)

▼主催:
外国人人権法連絡会/移住者と連帯する全国ネットワーク/人種差別撤廃NGOネットワーク/のりこえねっと/ヒューマンライツナウ

◆参加希望の方は、以下のフォームよりお申し込みください(定員50名)
https://goo.gl/forms/wNW9gVhzuhPRmlKH3
※当日参加も可能ですが、補助席あるいは立見となる場合があります。なお、嫌がらせやネットでの中傷等を目的としたご参加は固くお断りします。

チラシ ダウンロード(PDF、0.9MB)


2016年6月、ヘイトスピーチ解消法が施行されました。街頭での目立ったデモの抑制には一定の効果がありましたが、より小規模なデモや街宣は依然続いており、ここ最近は法律制定前に戻ったような状況さえ見られます。

そうした中であらためて直視しなければならないのは、街頭でのこうした動きの基盤となり、そしてその後も常にそれと連動する形で展開されてきた、ネット上でのヘイトスピーチです。そしてそこで標的となるマイノリティは、解消法の直接の対象となる在日コリアンやニューカマー外国人、アイヌ民族、琉球・沖縄の人々だけでなく、被差別部落出身者、性的マイノリティ、女性、障がい者など、きわめて多岐にわたっています。

この集会ではこうしたことをふまえて、海外の最新事情やマイノリティごとの文脈の違いも視野に入れながら、現在の日本のネット上のヘイトスピーチを包括的にとらえ、必要な政策課題を提言します。


 

◆賛同金のお願い◆
集会には講師の交通費や資料作成費など諸経費がかかります。ぜひ賛同をお願いします。
・個人賛同:一口 1000円
・団体賛同:一口 3000円

※賛同金は当日持参されるか、郵便振替番号00100-5-335113(口座名称:外国人人権法連絡会)までご送金ください。
※ご賛同いただける個人・団体でご希望の方には、当日配布する資料集に名前を掲載させていただきます。掲載を希望される方は、5月27日(日)までに 、下記連絡先までご連絡ください。
※ご賛同いただける個人・団体で集会に参加できない方には、後日資料集を郵送します。郵送を希望される方は、下記連絡先(メールアドレス)まで送付先を明記の上、ご連絡ください。

▼連絡先
外国人人権法連絡会(RAIK内)raik@kccj.jp

「日本国内の人種差別実態に関する調査報告書」2018年版

研究者、弁護士、市民団体メンバーの有志による「人種差別実態調査研究会」が、「日本国内の人種差別実態に関する調査報告書 2018年版」を公刊しました。

ご覧になりたい方は、以下のリンクをクリックしてください。


*人種差別実態調査研究会は、2016年4月に1回目の「調査報告書」を公刊しています。

「日本における外国人・民族的マイノリティ人権白書」2018年版

外国人人権法連絡会では、毎年「日本における外国人・民族的マイノリティ人権白書」を発刊しています。その2018年版を、2018年3月31日付で発刊しました。

下記の通り、外国人・民族的マイノリティについて包括的に取り上げ、最新の状況を知ることができます。ぜひご一読ください。

人権白書2018表1

●1冊 1,000円(送料込み)

 ※10冊以上購入の場合は、8掛け

【購入方法】
購入を希望される方は、下記のフォームに必要事項を入力し、送信してください。
お申し込み後、「人権白書」と郵便振替用紙を送ります。本が届いたら、郵便局で本代を振り込んでください。

・連絡先:在日韓国人問題研究所(RAIK)
FAX 03-3202-4977 または e-mail: raik@kccj.jp

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【目次】

はじめに ――阪神教育闘争70年と世界人権宣言70年の交差

第1章●ゼノフォビアとヘイトスピーチ
1.国(行政)におけるヘイトスピーチ解消法実効化の現段階
2.ヘイトスピーチ解消に向けた各自治体でのとりくみ
3.川崎のヘイトスピーチ根絶に向けた運動
4.解消法成立後1年半のヘイトスピーチの現状
5.ネット上のヘイトスピーチ
6.選挙活動とヘイトスピーチ
7.ヘイトスピーチに関する裁判

第2章●人種差別
1.法務省外国人住民調査
2.公人による発言問題
3.首都東京の小池知事、その歴史認識と人権感覚が問われている
4.蓮舫議員の代表辞任にみる二重国籍者に対するマス・ヒステリー

第3章●移住労働者の受け入れ政策
1.スタートした新技能実習制度~新法は制度改善につながるのか
2.技能実習・介護は何をもたらすか
3.「強制帰国」が止まらない
4.技能実習生のうつ病に労災認定
5.ベトナムの送り出し事情
6.外国人家事労働者の現況
7.農業特区はどうなるか
8.労働搾取される「留学生」
9.韓国の雇用許可制度はいま

第4章●”先進国”日本の外国人管理体制
1.2017年の日本の難民問題
2.人権侵害を生み出す入管収容の現状
3.名古屋入国管理局におけるハンガーストライキ
4.収容現場の責任体制を問う ~グェンさん死亡事件
5.「仮放免」という檻のない牢屋
6.ペルー人家族の在特義務づけ訴訟から問う子どもと家族の権利
7.新たな国際的規範形成の潮流からみた日本へのシリア難民受入れ
8.在留資格取消しによる外国人「排除」
9.冤罪で奪われた15年~「再来日」したゴビンダさんは何を語ったか

第5章●移住女性の権利
1.ジャパニーズ・フィリピーノ・チルドレン(JFC)母子の人身取引
2.移住女性と在留資格
3.「リコン・アラート」:協議離婚制度へのアクション
4.熊本地震被災外国人のシングルマザー調査から
5.移住女性の就労実態調査から

第6章●マイノリティの子どもたちの権利
1.高校入試の特別枠と特別措置
2.日本語指導が必要な児童生徒の動向
3.夜間中学拡充への転換
4.子どもの教育支援のネットワークづくりに向けて
5.朝鮮高校無償化裁判、各地で一審判決
6.大阪府・市の朝鮮学校補助金不交付処分に対する行政訴訟
7.大阪の民族学校をいかに存続させていくか
8.外国籍教員の処遇
9.Jアラート、作文コンクールと学校現場の対応
10.日本生まれの非正規滞在者の子が闘い取った在留特別許可

第7章●地方自治体と外国人住民
1.自治体の外国人住民施策
2.外国人生活困窮者の自立支援への施策
3.外国籍地方公務員
4.外国人諮問会議

第8章●国際人権基準とマイノリティの権利
1.人種差別撤廃委員会の日本審査を目前にして
2.第3回国連UPR審査と人種差別関連の勧告
3.自由権規約とマイノリティの権利
4.アイヌ遺骨返還訴訟と今後の課題
5.琉球・沖縄 - 人権擁護者に対する人権弾圧

第9章●未解決のままの国家責任を問う
1.「慰安婦」問題、被害国に「要求」を突きつける加害国日本
2.在日の「慰安婦」裁判を闘かった宋神道さん逝く
3.文書公開がさらに進む過去清算問題
4.「慰安婦」像をめぐるサンフランシスコ市と大阪市の姉妹都市解消
5.徴用工問題をめぐる日韓政府の「溝」
6.関東大震災時の朝鮮人および中国人虐殺追悼・調査の取り組み

おわりに ~日本国憲法施行70年と人種差別・治安管理

資料1 在日外国人の人口動態
資料2 主要な国際人権条約と日本の批准状況
資料3 在留資格取消し件数
資料4 声明文 「日韓合意」は解決ではない 政府は加害責任を果たせ
資料5 朝鮮総聯中央本部銃撃事件への抗議声明